個人研究

総合: 梅津 祐介

総合: 梅津 祐介

附属新潟小学校7年目となりました。今年度は,中学年複式学級の総合学習を担当します。

 

これからの社会に求められる力は
「問題を解決する力」よりも「問題を見つける力」へ
「モノをつくり出す力」よりも「意味を与える力」へと変わってきています。
このような要請に応えられる教科が,総合的な学習の時間です。

 

「〇〇を商品開発した」「△△に取り組んだ」
というようにコンテンツに注目されがちの総合学習ですが
「子供が身に付けた力は何か」という問いに
子供の姿と,教師の適切な評価方法で明確に答えられる単元を設計していきます。

【研究キーワード】

「総合学習らしい学び」「ターゲットの明確化」「ゴールの明確化」

 

ご連絡は下記まで
umetsu@fusho.ngt.niigata-u.ac.jp

総合学習の単元づくり

2023.05.24

市内の小学校の校内研修のお手伝いをさせていただきました。

使用したスライドの一部を掲載します。

総合学習のあるある

2021.10.08

これまでの研究授業で,私が参観者から何度も受けた指摘があります。それは,

「話合いが這い回っていた」

「話合いが空中戦になっていた」

という指摘です。最初は,これが自分の授業の課題だと思っていましたが,他校の授業でも空中戦の話合いを度々目にしました。総合学習の授業が空中戦になることは,もはや「総合学習のあるある」といえるのかもしれません。

総合学習の話合いが空中戦になりやすいのは,実社会の課題を扱うために,学習内容が広く,子供の発言に具体性が欠けてしまうからです。具体性がなければ,話合いの着地を見つけることは困難を極めます。

話合いの視点を共有すれば,空中戦を防ぐことができるかもしれません。しかし,それだけでは不十分です。子供が共有した視点を意識し続け,その視点に基づきながら話し合わなければ,空中戦になってしまうでしょう。

ここで一つの実践を紹介します。新潟の食材を使った弁当開発に取り組んでいる実践です。

食材選びを始めると,子供一人一人の好みがはっきりと表れます。しかし,好きだ,苦手だをぶつけ合っても食材は決まりません。そういった話合いにならないように,まずは食材を選ぶ際のポイント(視点)を次のように整理しました。

「味や食感を楽しめるもの」

「他の食材との相性がよいもの」

「歴史や風土を感じるもの」

ここで,これらの視点に基づきながら食材選びの話合いができるように,教師が働き掛けます。この実践では,整理した視点をレーダーチャートに落とし込みました。

レーダーチャートがあることで,子供たちの話合いがその枠組みの中で行われます。その結果,子供の発言に具体性が帯びます。まさに,空中戦ならぬ地上戦の話合いを見ることができました。

このレーダーチャートは,共有する視点が変わっても応用可能です。空中戦を防ぐ汎用性の高いツールといえるかもしれません。

最後にお知らせです。

初等教育研究会Autumnの協議会が11月24日(水)に行われます。単元設計や授業設計についてパネラーと協議します。参加者の皆さんの声も話題にしたいと思っていますので,多くの皆さんのご参加をお待ちしています。

探究の質を高める2つの問いかけ

2021.08.30

総合学習の特徴の一つとして,大単元の設計があります。

単元設計のポイントはいくつかありますが,

子供の探究活動の質を高めるためには,

評価のあり方を重視する必要があります。

「評価」と聞くと教師による評価をイメージされる方が多いと思いますが,

私は子供自身による評価を意識しています。

子供自身の評価を意識する理由は,

子供が目標の達成状況を把握したり,

新たな課題を見いだしたりすることが,

探究活動の質を高めると考えるからです。

評価をするためには,何をもって評価するのかという基準が必要です。

それは事前に用意するのではなく,子供の話合いでつくっていきます。

ここが教科書がない総合学習らしい学び方かもしれません。

ここからは6年生の具体的な実践で述べていきます。            

6年生はコロナ禍における食をテーマに学習を行っています。

外食について街頭調査を行うと,

多くのまちの人が外食が減ったことによって

「食べる楽しさを感じていない」ことが分かりました。

この実態を受けて子供は,下記のような目標を設定し,

目標を達成するために弁当の開発と販売に取り組むことにしました。


生産者や飲食店の方の話を聞いたり,

開発する弁当について話し合ったりしていく中で,

「彩りのよい弁当」「郷土料理を生かした弁当」「地元食材を生かした弁当」

というコンセプトが浮かび上がってきました。            

それぞれのコンセプトのよさを聞いていくと,

地元食材を使った弁当だけ,生産者にとってのよさが指摘されます。

消費者に食べる楽しさを感じてほしいと考えていたはずなのに,

生産者の立場で意見を述べているのです。

消費者のための弁当を生産者の立場で考える,この矛盾を子供に問いました。

これが,評価のための基準をつくる1つ目の問いかけです。

消費者と生産者の立場が混在していることが明らかになると,

地元食材を使うことと,消費者の食べる楽しさとの関係が話題になります。

しかし,これまで「食べる楽しさ」の意味について話し合ったことがありません。

子供は,食べる楽しさの意味を曖昧にしてきたので,

地元食材との関係について即答することができませんでした。

子供が食べる楽しさの意味に意識を向け始めた瞬間です。

ここで,子供に食べる楽しさの意味を問いました。

これが, 評価のための基準をつくる 2つ目の働き掛けです。

立場を問う,意味を問う,この2つの問いかけによって,

食べる楽しさの意味について考える話合いが行われ,

食べる楽しさとは,

「懐かしさを感じたり,地元の誇りを感じたり,新しい発見をしたりすること」

と規定されました。

これが評価のための基準になり,これを使って例えば,

「自分たちが考えたお弁当は,食べた人が新しい発見をするものになっているのか」

と子供自身が学習を振り返るようになるのです。

ここだけの美味しい食べテイク?

2020.12.01

 コロナ禍において,テイクアウトのあり方に関心をもった子供たち。食に関わる人々に対する支援の気持ちから,お弁当の開発と販売に取り組むことを決めました(販売は2月を予定)。
 この実践で大切にしたいことは,「お弁当を開発,販売して終わり」ではないということです。販売した後に,子供の中に何が残るか。子供がこの実践が終わったときに,「自分たちの取組は,社会(または自分自身)にとってどうだったのか」と説明できるようになっていなければいけません。
 このようなことを考えながら進めてきた学習の歩みを紹介します。下記の単元計画(PDFファイル)も参照ください。

 生産者の皆さんに出会い,お弁当に使う食材が揃いました。それぞれの食材の背景(生産者の思い,歴史,風土など)を知ることは,食への興味・関心を高めることも身をもって理解しました。このことによって,「お弁当を開発,販売したい」という子供の課題意識が,「消費者の興味・関心をどう喚起するか」というより明確なものに変わってきました。
 しかし,食材の背景をそのまま消費者に伝えても,伝わってほしいことは伝わりません。そのためにも,食材のストーリーを考えることはとても重要な活動です。子供がどのようなストーリーを考えるのか。単元はこれから大きな山場を迎えます。

探究プロセスで育成される力

2020.05.30

 社会の問題を自分ごととして考える総合学習において,校外学習や外部講師を招聘することが制限されてしまう今の現状にやり切れなさを感じている方がたくさんいると思います。そして,この状況をオンラインで乗り切ろうと考えている方もいらっしゃると思います。

 でも,ちょっと待ってください。オンラインでできる方法を考える前に,子どもにどんな力を付けたいのかを考えましょう。総合学習でこそ育成される力とは何かを考えましょう。その上で,この状況でできることを考えることで,本質を見失わないで済むのではないでしょうか。

 ここで提示したことをベースとしたとき,これからどんな総合学習を展開することが可能なのか,いくつかのアイデアを次回の更新でお示しします。

ご意見・ご感想をお待ちしています。

umetsu@fusho.ngt.niigata-u.ac.jp

私たちにできること

2020.04.23

今年度も6年生を担任しています。
コロナウイルス感染症が拡大する中,様々な教育活動が制限されています。


 1年生を迎える会もない
 委員会活動もない
 運動会も延期


子供たちは6年生らしさを発揮する場を奪われ,
力を持て余していました。
6年生として誰かの役に立ちたい,という気持ちが日に日に高まっていきます。
このようなときだからこそ,子供たちの目を社会に向けさせるチャンスです。


そこで,「私たちにもできること」を主題とした学年集会を行いました。
今の状況,子供たちが課題として捉えたのは,やはりマスクの不足でした。
マスクであれば,自分たちで作製して,必要としている人,守りたい人に渡すことができます。
作製したマスクを誰に渡すのか。
介護施設を利用しているお年寄りや,低学年の子供たちという案が出ましたが,
今回は入学したばかりの1年生のためにマスクを作製し,渡すことにしました。



臨時休校に入る前日,なんとか作製を間に合わせました。
手作りマスクをもらった1年生も嬉しそうでしたが,
それ以上に誰かの役に立てた充実感や達成感を味わった6年生の方が嬉しそうにしていました。

番組制作に取り組む

2020.01.30

これまでの学習の足跡を残したテレビ番組を,NCV新潟様の協力を得ながら制作しました。この番組を制作して終わりではなく,自分たちの提案を伝えるためのツールとしてどう活用していくのか,これから考えていきます。

物事の捉え方を変える

2020.01.22

総合学習では,「課題を課題として理解する力」や「自分なりの根拠をもって説明する力」を育てたいと思っています。こういった力は,探究のプロセスが発展的に繰り返されることによって育っていきます。発展的に繰り返す,ここに総合学習の特徴があります。

子どもの物事の捉え方が変わるとき,学習活動が発展します。物事の捉え方が変わるとは,どういうことか。地元の食の魅力を伝える活動を例にして説明します。

食の魅力を食材のおいしさだと考えた子どもは,食材のおいしさを伝える活動に取り組みます。しかし,魅力の捉え方が,生産者の思いだと変わった子どもは,食材のおいしさと生産者の思いを伝える活動に取り組みます。これが,物事の捉え方が変わって,学習活動が発展するということです。今年度の単元「未来デザイン・ラボ」では,子どものコミュニティの捉え方が変わっていきます。

今年度の単元「未来デザイン・ラボ」では,子どものコミュニティの捉え方が変わっていきます。そのあたりの仕組みを,研究会の全体発表でお話したいと思います。

「正解のない問い」を設定する

2019.12.04

「10年後の新潟のまち」をテーマとしたテレビ番組を制作し,若い人たちに提案することが単元の目的です。子どもたちがバックキャスティングによって描いた10年後の新潟は「楽しいまち」であり,それは「人と人とのつながり(コミュニティ)」があるまちだと考えます。

そのようなまちの姿を求め,行き着いたのが「沼垂テラス商店街」でした。 沼垂地域は新潟駅から直線で800mほどの位置にあり,新潟市の中でも特に歴史が深いまちです。近年,昔ながらの長屋スタイルを生かした商店街や,発酵・醸造のまちとしての活気を見せています。休日に開催する朝市では,2000人ものお客さんが訪れます。商店街を見学をした子どもたちも,人との関わりが深く,また来たくなるまちとして,その魅力を感じていきます。

しかし,そのような商店街も平日の人通りは決して多くはありません。その原因の一つを駅から商店街までの人の流れが少ないことに求めた子どもたちは,駅から商店街の間に,ワクワク歩けるような何かがあれば,人の流れができるのではないかと考え始めます。

人の流れのつくり方にはこれといった正解はありません。総合学習では,このような「正解のない問い」を設定することが大切です。探究する授業なのですから,考えることがみんな違って当然です。解が一つにならないからこそ,子どもが子どもなりに道筋を立てていくのです。この道筋が,「探究プロセス」と呼ばれるものになるわけです。

子どもと一緒にゴールを描こう

2019.08.13

 附属新潟の総合学習は,70時間の大単元をつくって活動します。大単元をつくることには子どもの目的意識を継続させる難しさがありますが,そこは教師と子どもが単元のゴールを一緒に描くことで乗り越えていきます。まちづくりをテーマとする本単元では,自分たちが描いた10年後のまちの姿と,それを実現させる方法を多くの人に伝えたいと子どもは考えました。「大きなホールで発表したい」「動画にまとめて発表したい」という子どもの願いを聞きながら,教師は「会場は,大学のホールでどうだろうか」「ケーブルテレビで番組をつくろう」と提案していきます。これがゴールを描くときの教師の役割です。

 

 ゴールが少し具体的になってくると,子どもはプロセスにも目を向けるようになります。誰に伝えるか(ターゲットの焦点化),誰に会うか(協力者の選定),何を考えるか(情報の整理・分析),というような意見も子どもの側から出てきます。本単元においては,「私たちは楽しいまちを目指しているけど,考えていることはみんな違うよね」という子どもの発言が秀逸でした。この発言が,子どもにとって合目的的な活動に転換するきっかけになりました。これは,教師と子どもが一緒になってゴールを描こうとしたからこそ表出されたものだと思います。  

 

 ゴールを描いた子どもが,10年後のまちについて,何を,どのように考えたのか。次回の更新でお伝えします。

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